話題の新書「ケーキの切れない非行少年たち」を読んで
話題の新書「ケーキの切れない非行少年たち」を読みました。
ケーキの切れないとはどういうことか?非行を繰り返す子たちはどうすれば良いのか?近年叫ばれる「褒める」ことの弊害とは?
色々と考えさせられることが多い本でした。
「ケーキの切れない」とは?
ー 丸いケーキを3等分にしてください
と言われたときに少年院や鑑別所にいる非行少年たち*の中には上の画像のように書いてしまう子が多くいるらしい。
(*ここでいう少年とは少女も含まれます。)
「え、何で?」と私たちが思うような考え方、見方でこの子たちは世界を見ているようだと感じたことが著者である宮口先生がこの課題に取り組むきっかけでした。
独特の考え方、見方をする子たちに、従来の更生プログラムを学ばせても意味がなく、反省には至らない、そしてまた非行を繰り返す可能性がある。
それらの子たちに適切な支援を施し、きちんと社会に適合できる大人として送り出す、これが宮口先生の目的です。
児童精神科医である著者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。(Amazon商品紹介より)
隠れた軽度知的障害を持つ子は14%もいた
上記のような私たちから見れば不思議な考え方をする子たちを紐解くと、軽度の知的障害を持つ子だったというケースの多さに驚く。
「軽度の知的障害」の定義はIQが70未満とされていて、人口の2%程です。**
でもこの基準は1950年代にはIQ85未満だったそうで、その人口は全体の16%にもなります。
基準が引き下げられた背景には受け入れ側の人手不足というか、対象者が多すぎて対処しきれないからということで、IQ70~85の子たちは知的障害ではないということではないんです。
彼らは「隠れた軽度知的障害」とも言え、これを本書では「境界知能」と呼んでいます。
(**最新の定義はもっと他の方法で測定されたものなります。)
「境界知能」の子たちは「普通の子」として適切な支援を受けないまま、他の子たちと同じような教育を受けますが、やはり付いていけなかったり、人間関係の構築が苦手だったりと、やがて社会に適応するのが難しい面が出てくる。
そのストレスが加わり非行に走る子も少なくない。
きちんと支援を受けていれば非行に走ることもなかったのかもしれないのに、何とももどかしいことです。
「褒める」だけでは問題は解決しない
最近は発達障害がクローズアップされて、その子たちへの対応として「褒める」というものがあります。
でも宮口先生は「褒める」だけでは問題は解決しないとおっしゃっています。
小さなことでも出来たら褒める、でもこの小さなことが社会的に認められることかと言えば必ずしもそうではない。
教育者がいくら褒めたって、厳しい社会の中では認められない自分、上手くいかない事実に気づくと、そこで「やっぱり自分はダメなんだ」と自己否定から非行に繋がるケースが多いそう。
じゃあどうすれば良いかと言うと、根本的には社会に適合する力を少しづつでも身につけていくしかないんです。
それによって出来るようになったことを「できた!」と自分で感じ取ることが大切なんです。
それが気づきとなって「自分はこんなこともできなかったのか、もっとできるようになりたい」という好循環に繋げていけるのです。
本の中で一番胸に刺さった表現をご紹介します。
子どもの心に扉があるとすれば、その取っ手は内側にしかついていない。
「褒める」というのは他者からの行為ですが
「気づき」は自分の行為です。
自分で気づかないと自分を変えていくことはできないという真意に私もハッとさせられました。
1日5分「コグトレ」
境界知能の子たちに気づきを与えるためのトレーニングとして宮口先生は「コグトレ」を提唱しています。
点と点を繋げたり、読み上げた文章の単語を覚えたりと国語や算数以前の認知を鍛えるトレーニングです。
これは境界知能の子たちだけではなく、一般のご家庭でも使えるトレーニングで私もやってみようと思いました。
実践的なトレーニング方法を学びたい方は是非こちらもチェックしてみてください。
まとめ
- 非行を繰り返す子の中には軽度の知的障害の子がいる
- 軽度の知的障害は見逃されがちで意外と多い
- 障害を理解した上でトレーニングをしないと反省や更生を押し付けても意味がない
- 「褒める」だけでは問題は解決しない
なかなか衝撃的な内容でしたが、大変勉強になりました。
身近な人や赤の他人であっても「境界知能」という概念を知っておくだけで、「どこか変わった人」で済ますことなく、その人の問題に向き合える気がします。
親としても自分の子、他の子を見るときに役立つ視点があり参考になりました。
まだ読まれていない方は是非チェックしてみてください。